おやっさんが見てきたもの

フラッと立ち寄った中華料理店のおやっさんから聞いた話をまとめておこう。

座席数15の寂れた店内には、いかにも中華らしい油でコーティングされたメニューが壁一面に貼ってあった。その対面には「2010年 50周年記念」と書かれた額に、歩道がない時代の店舗前の写真が飾ってあって、僕が「これ、50年前なんですか?」と聞いたことから話は始まる。

「それは昭和30年ごろだな」とおやっさんは口を開いた。

「昔はいっぱい人がいたよ。車社会じゃなかったからね~」

「なるほど!移動する人は、みんな人として見えたんですね!」

「とにかく活気があったよ。みんなご近所の店を使ってくれてたしね。今なんてホームセンターやら大きな施設に飲み込まれちゃうでしょ。車でピューッと行って。大型には敵わないよ。金物屋さんや時計屋さんは潰れちゃったわ」

「だんだん人の顔が見えなくなってきてるんですね~」

「そう。今の人は目が死んでる。これ。この前チラシ入ってたのさ」

おやっさんは昭和の記録写真集のチラシをみせてくれた。そこには明治調の三越のビルと当時の人々の写真が載っていた。

「この頃の人はみんな目がキラキラしてたよ~死んだ目の人なんていなかった。とにかくやれば成功したから。昔はすべて人対人だったからね。なんでも人の手でやっていた。今の人は可哀想だよ。体が必要とされてない。10人の仕事を1人とコンピュータ1台で済ませてしまうからね。俺なんか、循環器悪くして病院いくでしょ。そしたらね。俺、目の前に座ってるのよ?目の前にいるのに、顔色もみないでどうしました~とか言っちゃって、こうカタカタやってるからね。触診もしないで薬だしときますだってさ」

「そうですね~誰と話してるんでしょうね」

「データデータデータなんだね。悲しいね。仕事の取り組み方が変わってるよね。当たり前だけど。仕事といえばさ、俺がこんなこと言うのもあれだけど、自分の仕事にはプライドを持って欲しいね。安売りしちゃいけない。安売りしちゃいけないよ。安く買うのもいけない。よくさ、スーパーで安いのを買って行くじゃない、奥さんたちは。よく考えて欲しいよね。あんたんちの旦那が何の仕事してるか知らんけどさ、直接食品の仕事じゃないかもしれないけどさ。でもあなたがそれを手にとって行ったお陰で回り回ってあんたの旦那が安く売られるんですよって。デフレスパイラルを起こしちゃだめだよ」

「そうですね、いい仕事しましょ」

といったような熱い話をさせてもらいました。

ちょうどこの辺りの件のところで常連のお客さん(意外と若い、一見チャラい感じのカップル)が入ってきたので、僕はその場をあとにしました。

今度おやっさんのところに営業しにいこう。

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